1. はじめに
お気に入りの服や小物に糸引き、糸引け、ホツレなどを見つけると、とても気になりますよね。スカーフの柄がズレてしまったり、セーターから糸が飛び出ていたり、、。見た目も悪く、着用するたびに残念な気持ちになってしまいます。特にシルクやカシミヤなどの高級素材やデリケートな生地では、ちょっとした引っ掛かりがダメージの原因になり、そのままにしておくと更に広がってしまうことも多いため早めの対応が肝心です。
今回は、糸引き・糸引けが起こる原因や応急処置の方法、そして当店で提供しているかけつぎでの修理について詳しくご紹介します。

2. 糸引き・糸引けとは?
糸引き・糸引けとは、生地の糸が何かに引っかかり、表面に飛び出してしまったり、糸がズレている状態を指します。軽度であれば目立たないこともありますが、放置すると引っ張られて生地がゆがみ、最終的には破損につながることも。
糸引きには以下のような種類があります。
- 一般的な糸引き(スナッグ):生地の表面に細い糸が飛び出す現象。特に、目の粗いニットやツイル織りの生地で起こりやすく、見た目が悪くなるだけでなく、ほつれが広がる可能性も。
- ループ状の糸引き:ニットやカットソーでよく見られ、一本の糸が表面に飛び出してループ状になってしまうもの。目立ちやすく、服のデザインが損なわれてしまうのと、 ループがさらに引っ張られ、生地が緩んでしまう。
- 生地の引きつれ:織り糸が引っ張られて、生地の模様や質感が変わる現象。生地の模様や織り柄が乱れてしまう現象で、修復が難しいことが多い。
- 縫い目の糸引き:縫製部分で糸が浮いたり、歪んでしまう状態。主に縫製時の糸調整のミスや生地に合わせた縫製がされず、縫い目が裂けてしまうことも。
3. 糸引き・糸引けの主な原因
糸引きはさまざまな要因で発生しますが、主な原因として以下のようなものが挙げられます。
- 引っ掛かりによるもの:バッグの金具、アクセサリー、壁や家具の角などに何か突起物に擦れて発生。
- 摩擦や圧力:座ったときの椅子の摩擦や、洗濯時に他の衣類と絡まることで生じるもの。
- 生地の特性:シルクやニット、ポリエステルなどは特に引っ掛かりやすい。
- 経年劣化:長年使用した衣類は繊維が弱まり、糸引きが発生しやすくなる。


ザラザラしたところで擦れると、このように複数箇所糸が引けてしまうことがあります。
今回は糸が引けた後にすぐにご相談いただいたため比較的綺麗に仕上げることが出来ました。
4. 自分でできる応急処置
軽度の糸引きであれば、以下の方法で目立たなくなることがあります。
※判断が難しいため何もせずにまずは当店のような専門店にご相談することをお勧めします。
- 専用の補修針を使う:糸を生地の内側に引き込み、目立たなくします。
※専門店に持って行く予定がある場合は仕上がりに影響する可能性がありますので、注意が必要です。 - スチームアイロンで整える:軽い引きつれなら、スチームを当てると元に戻ることがあります。
※無理に糸や生地を引っ張ったり、ハサミで切ってしまうと状態が悪化するため、ご注意ください。

5. かけつぎ修理でできること
無地のごく小さな糸引けであれば市販の道具を使い応急処置ができますが、大きな糸引け、デリケートな素材、柄や模様がズレている場合は「かけつぎ」をおすすめします。
かけつぎでは、生地の損傷部分に対し、周囲の織りを再現する高度な技術で修復する方法です。元の風合いや柄を損なわずに、自然な仕上がりにすることが可能です。
- 修理可能な代表素材:
- ウール素材
- シルクやカシミヤなどのデリケートな素材
- ポリエステルなどの化学繊維(糸の形状によって修復不可の場合もございます)
- ニットやカットソーなどの伸縮性のある生地
その他様々な症状に対応できます。
- 修理できる範囲:
- 小さな糸引きから大きな生地の引きつれ、糸が切れてしまっている場合も新たに糸を入れて対応いたします。
- 織り柄の乱れや目立つ傷もできるだけ自然に修復可能です。
6. 修理事例の紹介
当店で実際に修理した事例をご覧ください。


引けた糸を少しずつ戻して修復していきますが、目立ちやすい生地のため、線が多少残っていますがかなり改善されました。今回のキズは一部欠損がありましたが、同柄の糸が取れないため仕上がりを考慮して欠損したままの状態になっています(着用には問題ないように仕上げています)。


引けとほつれが両方ある場合は、まず糸引きを戻していき、その後に欠損部分を編んで修復します。
薄手の生地であること、引けによる糸の癖の影響から多少の編み目の歪みがでて、多少線が入っています。


引けたことによって糸の癖が少し取れてしまったことから多少の編みの歪みが出ていますが、そこまで目立たずに仕上げることが出来ました。


飛び出た糸を針を使って手作業で元の位置に戻しています。
引けて飛び出た糸が擦れによって若干毛羽立っていたことから多少の線が残りましたが、着用時には目立たないほどに仕上がっています。
7. おわりに
糸引き・糸引けは見た目も悪く、またそのまま放置すると生地のダメージが広がっていくことが多いです。特にお気に入りの服や高級素材の衣類は、早めの対処が大切です。
「見た目が悪いからどうにかしたい」「買い替えるのはもったいない」「思い入れのある服を長く着たい」という方は、ぜひかけつぎを利用して長く愛用してくださいね。