
JOHN SMEDLEY(ジョン スメドレー)をはじめ、Gran Sasso(グランサッソ)、Drumohr(ドルモア)、ZANONE(ザノーネ)、Sunspel(サンスペル)、Fedeli(フェデーリ)、Cruciani(クルチアーニ)などに代表される、細い糸で編まれた薄手の上質なニットは、一般的なセーターとはまた違った、滑らかな肌触りとすっきりとした見た目が魅力です。ジャケットのインナーとしても使いやすく、一枚でも上品に見えるため、季節の変わり目から冬の重ね着まで長く活躍します。
一方で、生地が薄く編み目が細かいため、小さな虫食い穴や引っ掛け、糸引きなどが意外と目立ちやすいのも特徴で、当店にも多くの修復依頼があります。
今回は、ジョンスメドレーのような薄手ニットによくあるトラブルと、傷めてしまったときの対処法、日頃のお手入れ方法、実際にどのような補修ができるのかをご紹介します。
1.薄手のニットの特徴
薄手ニットの大きな魅力は、ニットらしい柔らかさを持ちながら、シャツやカットソーに近い感覚ですっきりと着られることです。厚手のセーターのようなボリュームが出にくいため、
- ジャケットやスーツのインナー
- 春や秋の一枚着
- 冬のコートのインナー
- きれいめな普段着
- オフィスや食事など少しきちんとした場面
など、季節を問わずさまざまなシーンで使いやすいニットです。
その代表格のジョンスメドレーでは、シーアイランドコットンやエクストラファインメリノウールを使用したファインニットが展開され、30ゲージの非常に細かな編み地の商品もあります。
ハイゲージの薄手ニットは、編み目が細かく表面も滑らかなため、シンプルなデザインでも生地そのものの上質さがよく分かります。
その反面、キズや補修跡も生地の表面に出やすいという特徴があります。
2.薄手のニットによくあるトラブル
虫食いによる小さな穴
ウールニットのトラブルで一番多いのが、保管中の虫食いです。シーズンが変わって久しぶりに着ようとしたところ、「小さな穴が開いていた」「よく見ると数か所に穴があった」というトラブルです。穴そのものは数ミリ程度でも、薄手ニットがゆえ、肌やインナーの色が見えて意外と気になることがあります。
また、虫食いの場合は自分が見つけた所以外にも、周りにも穴が開いている場合が多いです。明るい場所で生地全体を確認してみることをおすすめします。
虫食い穴


薄手の生地ですが、透け感が少なかったこと、目立ちにくい色の生地だったため比較的綺麗に仕上げることができました。同じような穴でも生地の色や編み、厚さ等によって仕上り具合が変わってきます。
虫食い穴(リブ編み)


製品の見えないところから糸を取り、部分的に編んで修復しています
リブ編みは一般的な編み方(メリヤス編み)と比べると編み目が歪みやすく目立ちやすい編みの種類になります。修復箇所は糸が2重に重なることから透け感が少なくなること、また淡い色も修復に使用する糸との色違いが出やすいことから跡残りが出やすいです。製品から抜き取った糸を使い同じように編んでいるため他の修理方法と比べると馴染みは良いです。
引っ掛けによる糸引き
バッグの金具、ファスナー、アクセサリー、家具などに引っ掛かり、糸が一部だけ飛び出してしまうことがあります。薄手のニットでは、一本の糸が引かれただけでも周囲の編み目が引っ張られ、線のような跡になることがあります。
このとき特に注意していただきたいのが、飛び出した糸を切らないことです。糸を切ってしまうと、その部分が更に大きな穴になったり、そこから編み目がほどけたりする原因になってしまします。
糸出(糸引き)


飛び出た糸を元の位置に戻して修復しました。
非常に薄手の生地であることに加え、糸引きによって糸に多少の癖がついていたため、多少の線が残っていますが、そこまで違和感なく仕上げることができました。
今回は糸が切れていなかったため、元の糸をそのまま戻して修復することができました。もし糸が切れている場合は新たに糸を入れて修復する必要があり、修復箇所の糸が重なることで周囲より透け感が少なくなり、跡が目立ちやすくなることがあります。
そのため、飛び出した糸は切らずそのままの状態でご相談ください。
摩擦による生地の薄れ
肘、脇、袖口、裾など、繰り返し擦れる場所では少しずつ生地が薄くなっていきます。穴になる直前の状態では、一見すると穴が開いていなくても、周囲より透けて見えたり、編み目が緩んだように見えたりすることがあります。擦れが続いて完全に糸が切れて大きく欠損してからよりも、早い段階でご相談いただいた方が修復できる可能性は高くなります。
肘のスレキズ



穴の周りも透かして確認すると、生地がかなり薄くなっていたため、見た目以上に広い範囲を修復しています。
今回は製品から糸を抜き取ることができなかったため、できるだけ近い糸を使用して修復しました。比較的似た糸が見つかったため、編み目の歪みや多少の色の違いはありますが、そこまではっきりと目立つことなく仕上げることができました。
肘は着用時に擦れやすく、生地が薄くなりやすい部分です。生地の傷みが進みすぎると修復が難しくなる場合もあるため、早めのご相談がおすすめです。また、着用時にもできるだけ肘部分が擦れないよう気をつけていただくことで、より長くご愛用いただけると思います。
袖口の破れ


製品の内側から抜き取った糸を使い、端の部分を編み直して修復しています。
今回は部分的に負荷がかかっていたため、場所によって生地の傷み具合に差があり、端の部分に凹凸が残る仕上がりとなっています。また、着用による色褪せが出ていたことから、修復部分と本体との間に多少の色の違いも見られます。
この位置は損傷の程度によって、修復跡が目立ちやすい場合があります。腕時計との擦れや、袖丈が長く手首まわりに生地がたまりやすい場合などに、このようなキズができることがあります。
同じ場所が傷みやすい方は、日頃から袖口への擦れや負荷を少し意識していただくと、傷みの予防につながります。
脇の破れ


脇の部分は着用時に気づきにくく、気がついた時にはこのような大きな穴になってしまっていることが多々あります。脇のほつれは、穴が大きく見えても切れている糸の本数自体は少ないこともあり、比較的きれいに仕上がりやすい箇所です。
シーズンオフでしまう前などに一度全体を確認していただくと、小さなほつれの段階で対処できるためおすすめです。
毛玉取りによる誤ったカット
飛び出した糸を毛玉だと思い、毛玉取り機やハサミで切ってしまうケースにも注意が必要です。特に薄手ニットでは、糸引きによって表面に出てきた糸が小さな毛玉のように見えることがあります。周囲に引きつれた線があるものや、指で軽く触っても取れないものは、無理に切らずそのままにしてください。

首回りのほつれ
薄手のニットでは、首回りのリブや身頃とのつなぎ目がほつれることもよくあります。
首回りは着脱のたびに伸び縮みし、肌やシャツの襟との摩擦も受けやすいため、長く着用しているうちに糸が切れたり、編み目がほどけたりすることがあります。
細い糸で編まれたニットは、最初は小さなほつれでも、そのまま着用を続けることで少しずつ範囲が広がってしまうことがあります。
ほつれを見つけた場合は、飛び出した糸を切ったり、別の縫い糸で縫い合わせたりせず、そのままの状態でご相談ください。
糸出(糸引き)


首元のほつれはそのままにしておくとどんどん広がってしまうため注意が必要です。
このように別素材とつながっている箇所でも問題なく修復できます。
首元のほつれは比較的きれいに仕上がることも多いため、広がってしまう前にお早めにご相談くださいませ。
3.薄手ニットはなぜ補修が難しい?
薄手ニットの場合、キズの大きさだけで修復の難易度を判断することはできません。重要なのが、糸の細さと編み目の細かさです。
かけつぎとは元の生地と同じように糸を編んで生地を復元するように修復する技術です。ジョンスメドレーのようなファインニットは、一つひとつの編み目が非常に小さいため、修復部分にも同じような細かな作業と時間が必要になります。
また、長年着用されているニットでは、
- 本体が少し色褪せている
- 編み目が伸びている
- 生地が薄くなっている
- 糸そのものが弱くなっている
といった変化が起きていることもあります。そのため、同じ製品から糸を取って修復した場合でも、多少の色違いや編み目の歪みが目立つことがあります。経年劣化しているものは修復跡が目立ちやすい場合があるという点は、事前にお伝えしています。
4.穴や糸引きを見つけたときの対処法
飛び出した糸は絶対に切らない
飛び出している糸が元の編み目につながっていれば、その糸を利用して状態を整えられる可能性があります。切ってしまうと、糸が欠損して穴になってしまいます。
自分で縫い合わせない
穴の左右を縫い糸で寄せて塞ぐ方法もおすすめしていません。薄手ニットの場合、縫い縮めることで周囲の編み目まで引っ張られ、補修した場所だけがつれたように余計に目立って見えることがあります。後から改めて修復する場合にも、縫い糸をほどいた跡が残ってしまうことがあります。

接着剤を使わない
ほつれ止めなどの接着剤を表側から使用すると、柔らかな生地が硬くなったり色が変わったりすることがあります。一度固まってしまうと取り除くことが難しい場合があるため、専門店へ修理の相談する可能性がある場合は、なるべく何もせずそのままお持ちください。

5.薄手ニットを長く着るための日頃のお手入れ
まず大切なのは、製品についている洗濯表示を確認することです。素材や製品によって適切なお手入れ方法は異なります。他にも製品についているタグ以外にも公式サイトで、お手入れ方法を案内しているブランドがあります。ジョンスメドレーではシーアイランドコットン製品について30℃での洗濯や平干し・平置きでの保管、エクストラファインメリノウールについては裏返しての洗濯などが案内されています。ご自身で洗濯が不安な場合はクリーニング店にお任せするのが安心です。
また、日頃から次のような点に気を付けるだけでも、生地への負担を減らせます。特にウール製品は、長期間着ない時期の保管方法が重要です。
- 着用後はすぐに収納せず、湿気を飛ばす
- バッグやベルト、アクセサリーとの引っ掛けに注意する
- 連日着用せず、生地を休ませる
- 長期保管前には汚れを落としておく
- ハンガーに掛けたままにせず、必要に応じて畳んで保管する
- 衣替えの際に虫食いがないか確認する
5.薄手のセーターやニットの穴やほつれ、まずは専門店へご相談を。
上質でお気に入りなニットほど、「小さな穴だけれど、このまま着るのは気になる」「着心地がよいので着続けたい」「修理したらどの程度目立つのか、修理にかかる金額を知りたい」という方が多いと思います。
特にジョンスメドレーのような薄手のニットは、編み目が細かいため簡単な修理ではありませんが、キズの状態や場所、糸の残り方によっては部分的な編み直しなどで修復できる場合があります。
反対に、生地そのものが大きく劣化している場合や、糸の欠損が激しい場合など、きれいな仕上がりが難しいケースもあります。
当店では、お写真や、現物を確認したうえで修復方法や仕上がりの目安をご案内しています。
ジョンスメドレーをはじめ、大切に長く着たい薄手ニットの穴・虫食い・糸引きでお困りの際は、まずは専門店へお気軽にご相談ください。



