スーツが破れた際接着剤による修理、自己流の縫い付け、ほつれ糸のカットなどは、かえって跡が目立ってしまったり、再加工の際支障が出てしまうことが多々あります。やってはいけない応急処置と正しい対処法を解説します。
スーツが何かに引っ掛かって破れたり、虫食いによる穴を見つけたりすると、これ以上広がらないように自分で応急処置をしたくなるかもしれません。しかし、良かれと思った応急処置が、後々の修理を難しくすることがあります。スーツが破れた直後は、何かを付けたり縫ったりするのではなく、できるだけ元の状態を保ったまま修理店に相談することが大切です。
スーツが破れた直後はどうすればよい?
まずは着用をやめ、キズを引っ張ったり、何度も触ったりしないようにしてください。接着剤や補修シートは使用せず、飛び出した糸や取れてしまった生地も捨てずに残しておきます。そのうえで、早めに修理店へ相談しましょう。
修復跡をできる限り抑えたい場合は、自己流で手を加える前に、かけつぎ(かけはぎ)専門店へ相談することをおすすめします。
キズができた後にやってはいけないこと
①接着剤を付ける
布用接着剤であっても、かけつぎを検討している場合は、使用前に専門店へ相談してください。接着剤が繊維の間に入り込むと、生地が硬くなり、元の糸を動かしにくくなることがあります。表面からはきれいに付いたように見えても、時間が経つと次のような変化が出る場合があります。
- 接着した部分が白くなる
- 接着部分だけ色が濃く見える
- 生地に硬さや凹凸が出る
- 接着剤が表面へ染み出す
- クリーニングによって接着部分が変化する
再加工する際にも、接着剤を完全に取り除けないことがあります。その場合は、接着剤が付いた範囲ごと生地を取り除き、元のキズより広い範囲を修復しなければならないことがあります。
※衣類用の接着剤であっても、洗濯に耐えられるよう強い接着力があることが多いため注意が必要です。

キズを見つけると、すぐに応急処置をした方がよいと思われがちですが、かえって修復が難しくなったり、跡が目立ってしまうことがとても多いです。ご自身で手を加える前に、まずは専門店へご相談ください。

のりが付着している部分を切除し、織り目に沿って四角く修復しています。四角に多少の跡は出ていますが、元の状態から大幅に改善することができました。
今回はキズが縫い目を挟んで2か所に分かれているため、2か所分の修復費用がかかっています。また、襟部分はミシンの縫い目をほどき、加工後に元の状態へ戻す作業が複雑なため、別途追加費用が発生しています。
②自分で縫い合わせる
裂け目を手縫いで閉じると、一時的に穴が小さく見えることがあります。しかし、破れた生地を無理に引き寄せて縫うと、周囲の生地がつれたり、シワや凹凸が残ったりすることがあります。また、針を何度も通すことで、新しい針穴が増えてしまいます。縫い糸をほどく際にも、元の生地の糸を誤って切ってしまうことがあります。
特にジャケットの袖や胸、スラックスの太ももなど、表から見える場所は、自己流で縫わずにそのままの状態でお持ちください。

このように縫うと、柄の歪みや生地のたるみが出やすくなります。また、強く寄せたことでキズ周りの生地まで傷んでいる場合があり、再加工の際に修復範囲がかえって大きくなることもあるため、ご注意ください。
③飛び出した糸を切る
破れた部分から糸が飛び出していると、見た目が気になり、ハサミで短く切りたくなるかもしれません。しかし、その糸を修復に利用できる場合があります。また、どの方向の糸が切れているのか、損傷がどこまで広がっているのかを確認するための手掛かりにもなります。
飛び出した糸は引っ張らず、切らずに残しておいてください。取れてしまった小さな生地や糸がある場合も、捨てずに袋などへ入れて保管しましょう。

④そのまま着用を続ける
スラックスのお尻、股、膝、ポケット口、ジャケットの肘や脇などは、着用中に負荷がかかりやすい場所です。小さな裂けであっても、座る、立つ、腕を曲げる、ポケットに物を入れるといった動作によって、一気に広がる可能性があります。特に股やお尻の破れは、表から見えている範囲より周囲の生地が薄くなっている場合があります。キズに気付いたら、そのスーツの着用はいったん控えましょう。
クリーニングは修理前と修理後のどちらがよい?
キズを見つけた後、修理前にクリーニングへ出した方がよいのか迷われる方もいらっしゃいます。基本的には、先に修理店へ相談することをおすすめします。クリーニング中の動きや洗浄によって、破れた端がほつれたり、穴が広がったりする可能性があるためです。一方で、汚れの状態によっては、加工前にクリーニングが必要になる場合もあります。
自己判断で先にクリーニングへ出すのではなく、写真を送る際に、汚れやシミの有無も一緒にお知らせください。
スーツが破れた直後の正しい対処法
1.着用を控える
キズへ負荷をかけないように、着用を中止します。脱ぐ際にも、破れた部分を引っ張らないよう注意してください。
2.糸や生地を触らない
飛び出した糸を切らず、裂け目を引っ張らず、そのままの状態を保ちます。取れてしまった生地がある場合は、一緒に保管してください。
3.修理店へ相談し、修理方法を相談する
見た目を重視する場合は、ミシン、接着剤、裏当てなどの加工を行う前に、かけつぎ専門店へ相談してください。写真をもとに、かけつぎが適しているか、修復跡がどの程度残る可能性があるかを確認します。
発送するときにテープを貼ってもよい?
キズの場所を示すためにテープを使用する場合は、キズを直接覆わないようにしてください。
キズから少し離れた場所へ、粘着力の弱いテープを貼ります。
ガムテープや強力な両面テープは、生地を傷めたり、接着剤が残ったりする可能性があります。
薄い生地やデリケートなスーツの場合は、無理にテープを貼らず、キズの場所を記載したメモや写真を同封するだけでも問題ありません。
糸引き多数


修復方法: 飛び出た糸を元の位置に戻していきます。跡が目立ちやすい生地のため、多少の引けの跡は残っていますが、そこまで目立たずに仕上げることができました。こちらの飛び出た糸を切ってしまっているとすべて穴になってしまい新たに糸を入れなおす必要があるため金額及び仕上がり具合に影響が出てきます。
スラックス(バーズアイ柄) 虫食い穴


このくらいの大きさのうちにかけつぎで修復しておくと、仕上がりや費用の面でも負担を抑えやすくなります。
キズが小さいからと思って手縫いでつまんだりすると、かえって修理跡が目立つことがあります。また、このまま着用を続けると、引っかかりや摩擦によって穴が大きくなる可能性もあるため、早めの修復をおすすめいたします。
すでに自分で直してしまった場合も相談できます
接着剤を付けた、手縫いをした、補修シートを貼った、ミシンで修理したといった場合でも、再加工をお受けしております。
ただし、以前の修理を取り除く必要があるため、最初のキズよりも広い範囲を修復することが多く、料金が高くなったり、修復跡が大きくなったりする場合があります。
また、再加工によってかえって見た目が悪くなると判断した場合は、現在の修理をそのまま残すことをおすすめすることもございます。
ご自身で接着剤や糸などを取り除かず、まずは現在の状態が分かるお写真をお送りください。
まとめ|何か手を加える前にご相談ください
スーツが破れた直後は、早く穴を塞がなければと焦ってしまうかもしれません。
しかし、かけつぎを行う場合は、できるだけ加工されていない状態の方が、小さな範囲で修復できる可能性が高くなります。
次の5点を意識してください。
- 接着剤を付けない
- 自分で縫わない
- 飛び出した糸を切らない
- キズを引っ張らない
- そのまま着用を続けない
大切なスーツをできる限り良い状態で修復するためにも、応急処置を行う前に、紬かけつぎ店へご相談ください。



